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【 イスラムのゆくえ 】

序説

第1部
イスラム国寸描
「ユーラシア異変」
「イスラムとの遭遇」

第2部
文明の概観、経緯、特徴
「イスラム文明拝見」

第3部
文明の課題
「イスラム文明の盲点」

第4部
未来を拓く提言
「文明の今後」

2004年の年間テーマ【 イスラムのゆくえ 】
複数の視点と切り口から、このイスラムの行方に迫ってみようと思います。

第4部は、イスラム文明圏の今後に焦点を当てる最終章です。
イスラム圏の課題に対する提案に踏み込みます。


             序説
ユーラシア異変
「イスラムとの遭遇」  第1部 イスラム国寸描        1〜3月
「イスラム文明拝見」 第2部 文明の概観、経緯、特徴  5〜6月
「イスラム文明の盲点」 第3部 文明の盲点         9月〜
「イスラム文明の方向」 第4部 文明の今後          12月〜

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文明の今後 - イスラムの転換点 【2004年12月5日】

    アラファトの死 / 自由世界のコンセンサス


いよいよ、今年のテーマでお送りしてきた「イスラムのゆくえ」ですが、
第4部、最終章をお送りする時期になりました。

今年1年、イスラムをテーマに書いてきましたが、どの程度読者の方々に楽しんでいただけたかなー? と思うと、かなり心もとない感じがしています。

イスラムの問題点を浮かび上がらせるということを目指しましたが。ということはつまり、世界の持つ問題点をも逆照射させるということでした。

そのあたりが甘かったかな、という反省点も踏まえて、

この最終章の第4部をまとめてみたいと思います。おつきあいくださいませ。



■アラファトの死

2001年9月11日アメリカ同時テロ以来、全世界を巻き込んで始まったあからさまなイスラム圏との軋轢は、先月11月のアラファト議長の死去により、ひとつの転換点を迎えているようにみえます。


アラファト議長埋葬までの一連の報道は、CNNが中継していましたが、


中でも、ヘリに載せたアラファト議長の棺がラマラに到着した広場での中継は、圧巻でした。ご覧になった方々も多いでしょうが、筆者も目がくぎ付けになりました。

ヘリが2機、充分に着陸できる程の広場は、パレスチナ自治政府の建物近くにあるようでしたが、イスラエルからの爆撃(空爆?)を受けて、周囲はボコボコに崩れています。

そのガレキの上や、隙間、その周辺の樹上にまで、アラファト議長に弔意を表そうというイスラム教徒の男性たちがびっしりと立ち尽くし、上空に待機するヘリの着陸を今か今かと、待ちわびていました。

ようやく警備隊が人びとを遠ざけてヘリ2機が降下できるスペースを確保していましたが、到着したヘリめがけて人びとが瞬く間に殺到して、ビッシリと取り囲んでしまいました。

その数、5,000とも、10,000とも報道記者は表現していましたが正確にはわかりません。CNNのカメラでアップになった人だけ表情が分りますが、全体を写せば、豆粒のような人物群像です。

時々、アップになる人びとは、押し合いへし合いして小突きあいながらも、思い思いに弔意を表したい男性群のようでした。腕を振りかざして何かを叫んでいる人もいますが、ワーンという全体音とヘリの音以外は、まったく聞こえません。

その間、CNNのレンズが捕らえた女性は、3名だけ。黒尽くめの母娘とおぼしい2名は両腕を前に差し出してアラファトの名を連呼しつつ、周囲の人々をリードしていました。もう1名は、西洋風の服装でベールも被らず、広場円周の端っこのガレキ部分に立って状況を眺めている人でしたから、欧米の女性記者なのかもしれません。


そして、圧巻は


アラファトの棺がヘリから出され、霊柩車の代用車に載せて、群集で埋め尽くされた広場を掻き分けつつ進み始めたときです。

人びとはわれ先にと、その棺に触れて哀悼を表わそうとし、手の届かない者は頭に被る布を投げて棺に間接的に触れたり、自分のその被り物で棺を覆ったり、そのたびに、棺は剥き出しになったり、自治政府の旗を掛け直されたり、個人の布に取って変わられたりします。

そのうち、10名程度の同じ服装をした(周囲とははっきり違う)グループが人びとの頭を乗り越えて、棺を載せた車に載りあがり、拳を突き上げて自分たちのグループを主張しつつ、弔慰を表わし始めました。「アルアクサ旅団」と名乗る、イスラム過激派だというCNNの解説です。

そのシーンだけが切り取られ、世界中に配信されたわけです。

大人しい、普通のイスラム教徒は、あそこまで自己主張して、人々を掻き分けて棺にまでたどり着こうとはしません。ただ、自分なりの弔意を表わしたくて、居ても立ってもいられずに周辺を取り囲んでいるという風にみえました。


ここまでみて、筆者は、これは、メッカの巡礼地で、イスラム教徒が中央のカーバ神殿の周りを回る巡礼儀式の様子と非常に似ていると思いました。

個人個人の表情も読み取れないほどの大群衆が、1つの「中央にあるもの」に殺到することです。

イスラムの巡礼では、

カーバ神殿1周ごとに、神殿根元にある石に触れるのだそうですが、これも、巡礼の大群衆の中でたどり着くのは至難の技です。

外縁を周回しているイスラム教徒が、中央の神殿根元にたどり着くには、相当の覚悟で周回の渦に入り込み、掻き分けて、最内側の周回コースに入るしかありません。


中央の権威あるもの目掛けて殺到する、という構図は、イスラム圏ならではの構図です。

これが、アラファト埋葬でも繰り返されているわけです。


この、アラファトの棺を載せた車に上がり、拳を突き上げたアルアクサ旅団のメンバーを、イスラム教徒の誰も、引き止めていないようでした。

良い方に取れば、アッラーの名のもとの平等が優先され、暴力を肯定するイスラム過激派にも哀悼の表明が許されているということでしょうが、


それが、


結局は、イスラム圏の限界そのものであり、アラファト議長の限界もそこにあったわけです。

イスラム教の始祖となったマホメットが戦争能力に長けていたため、どうしても信者は、始祖を真似ますから、暴力を都合よく肯定して、好戦的になります。

ですから、青年アラファト自身がイスラエルへの抵抗運動に身を投じたように、こうした暴力=武力を肯定するグループを、最後まで彼は自治政府構想から切り離すことができなかったわけです。

これは、

逆説的ですが、アッラーへの信仰が強くて行動的な人ほど、暴力=武力を手放せないということでもあります。

その状況が、人生の最後の最後に出たわけです。過激派の親玉で終わってしまいました。

アラファトの光と影とは、つまり、イスラム教=イスラム圏の光と影そのものだと思わされた象徴的な光景でした。


■自由世界のコンセンサス

筆者は、あの、アラファトの棺を前に悲しむ群集シーンの中継が、CNNを通して全世界に配信されたことの意義は、とても大きいと感じています。

ひとつは、

どのような理由と歴史的なしがらみがあろうとも

「中東地域に住むパレスチナの人びとには、独立国家樹立が必要」だということが、全世界の人びとに伝わったということです。

今までは、パレスチナ問題といえば、遠い話でした。「中東和平ロードマップ」などといわれても、アメリカとイスラエル、ヨーロッパの政治家がやっていること。で、他人事でした。

しかし、少なくとも、アラファトの棺に哀悼を捧げる人々の姿に、嘘偽りはないわけです。民族としてまとまり、国家を樹立して生きることを請い願う人々の姿をTVを通して同時中継で世界の一般人が見たことのインパクトは大きいと思います。

あの広場の大群衆シーンを見て、パレスチナ民族というものを初めて感じられた人も多いのではないでしょうか。


それと同時に、一方ではまた、


パレスチナ建国のカギは、パレスチナ人たちが建国に際して暴力=武力を捨て、民主主義手法を学んで実施していくことができるのか。イスラエルとの難しい交渉に耐えられるのかということも明らかになりました。


もはや、パレスチナ建国は、誰の目にも明らかな国際社会が認める合意事項になったわけです。

アラファトが亡くなり、パレスチナ和平が動く気配をみせ、誰もが希望を持ち始めたことでも分りますね。


問題は、パレスチナ側が、イスラエルとの今後の難しい交渉を話し合いだけで進められるかどうか。この1点にかかっているわけです。

ですから、パレスチナには、今後、対イスラエル強硬論者ではなく、パレスチナ内部の暴力=武力志向グループを説得し、内部の過激派を逮捕し、非合法化するほどの、イスラム圏の未来を見据えて大局的な決断をできるタフな政治家の登場が求められているというわけです。

これは、

ある意味では、イスラム圏とイスラム政治が変質していくことを意味します。

誰がこの大役を果たせるでしょうか。誰がこういったタフな政治決定を下し、暗殺されずに実行できるでしょうか。アッバス氏でしょうか、他の若手の誰でしょうか。

そして、こうしたイスラム政治の変化を保証する、イスラム法学者の協力はどの程度あるでしょうか。

筆者は、パレスチナ、ひいてはイラクも含めて、イスラム圏は衆知を集めてこの試練を乗り越えて、暴力=武力を捨てていく以外、地球上に生きる文明圏として今後発展する余地はないと考えます。

どのような文明圏に生まれようとも、生命と家族、職業、言論の自由、行動の自由が保障され、個性に応じて人生設計を立て、能力を高めつつ社会に何らかの貢献を行い、有意義な人生経験を積めること。

これは、この地球上に生きる私たち国際社会の共通の認識だからです。

これが守れない文明圏は、結局、その言動を捨てない限り、存続してはいけません。その意味では、イスラムの解体がある程度進み、暴力を捨てて寛容と博愛を受け入れ、民主主義を受け入れ、地球の多様性を受け入れてイスラム圏も地球の文明圏のひとつとして生きる道を模索する時期が来ているということですね。


来週は、「イスラムのゆくえ」第4部、イスラム圏への提言を含めた最終章です、お楽しみに。
 <Rei>

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